「神秘的体験その1 三段峡の蛍の大群」

 中学生と高校一年生の時と、二度ほど広島の県北、戸河内にあるN君の実家を訪れたことがあった。二度目の時にはB君、H君、M君、T君と一緒であったが、戸河内から三段峡巡りをした。黒淵を経て二段瀧へ行き、急流の猿飛をロープ船で渡って、二段瀧の勇壮な景観を楽しんで、帰りは荷物と洋服は船に乗せて、水深四、五メートルはあろうかと思われる猿飛を泳いで戻った。

  水底の石碧く澄む朱夏の淵  龍次郎

  それから三段の滝や聖湖ダムを巡って、その夜は黒淵荘に泊まった。夕食を終え二階の部屋で寛いでいると突然障子が明るくなり、障子を開けて欄干のある廊下に出てみると、まさに雲霞の如き蛍の大群が山荘の欄干すれすれに長い尾を引きながら流れ去ってゆく光景に出会った。射干玉の暗闇の中における蛍の大群の乱舞という大自然の生み出した須臾の美しき光景に、私達は驚嘆すると共に深く感動した。これが私の生涯における最初の神秘的体験である。平成二五年(二〇一三年)の七月に、東京のミニ修道会のメンバーと広島の修道同期の有志、計一二名で三段峡の蛍狩りリユニオンの一泊旅行を行った。三段荘に泊まって橋の上から蛍狩りをしたが、蛍の数は本当に少なくなっていた。そのようにして大変お世話になった畏友N君は、2019127日に急逝されたことは,誠に残念であった。もっともっと、人生についてN君と語りたいことは山ほどあった。謹んで哀悼の意を表するものである。


三段峡の黒淵にて


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