「読書についての再啓発」
本店営業部でご一緒したのがSさんであったが、彼の読書量を聞くにつれ、いかに自分が本を読んでこなかったかを痛感した。そこで読書の対象を三分類して、読むことにした。先ずは業務に関するマクロ的な関連本、そして業務に関するミクロ的な関連本、それから教養としての文芸本である。これは一九八〇年の九月から開始しており、読書ノートに題名と著者それから出版社と読了年月を記して、本文のうち参考となる文章を書き写すこととした。このようにしたのは、折角読書をしても内容を忘れることが多いことを実感したからであった。この読書ノートにより、あとからノートを見ることで、その主たる内容を忘れないようにするためである。結果としてこれは文章の勉強となり、語彙を豊富なものとしてくれることとなった。そしてこのやり方を通じて感じたことは、一冊の本を読んで、書き手の言わんとする文章で心に残るものを、一つでも見つけて心に刻むことが出来たら、読書の大きな収穫であるということである。
今当時読んだ本の題名と内容を見直してみると、政治、経済、金融などのマクロ的な本はその時代の課題と将来展望を中心としているので、その時代限りのものとなり、永続して読まれているものは殆どないと思われる。従って、それらの本はこの本文においては記載しないこととする。一方教養としての読書は、今読み返しても奥深い内容を持っている本が多い。又Sさんからは、雑誌『選択』の紹介も受け、昭和五四年以来香港在勤中も含めて、いまだに愛読をしている。
日本に帰国した一九七九年六月から、柳橋支店に転勤する一九八三年一〇月にかけての読書で記憶に残っているのは、下記の書物である。大手町の本店内に勤務していた時代の読書である。
『地の糧』 アンドレ・ジイド 『キリストに倣いて』 トーマス・ア・ケンピス
『藝術の慰め』 福永武彦 『京都古寺逍遥』 水上勉
『吉井勇歌集』 吉井勇 『城の中の城』 倉橋由美子
『日本の父へ』 グスタフ・フォス 『アメリカの逆襲』 小室直樹
『ソビエト帝国の崩壊』 小室直樹 『ドイツ参謀本部』 渡辺昇一
『海軍と日本』 池田清 『美と倫理の矛盾』 梅原猛
『禅語百選』 松原泰道 『王朝百首』 塚本邦雄
『けさひらく言葉』 塚本邦雄 『美と宗教の発見』 梅原猛
『愛について』 今道友信 『陰影礼讃』 谷崎潤一郎
『日本の秀歌 古典編』 司代隆三 『沈黙の日本美』 吉村貞司
『川端康成・美と伝統』 吉村貞司 『彼方の美』 福永武彦
『猿丸幻視考』 井沢元彦 『論語の読み方』 山本七平
『論語』 貝塚茂樹 『禅語百選』 松原泰道
『人間この劇的なるもの』 福田恒存 『五輪書』 宮本武蔵
『出世を急がぬ男たち』 小島直記 『紀貫之』 大岡信
『文明が衰亡するとき』 高坂正尭 『ギリシャ神話』 串田孫一
『帝王学ノート』 伊藤肇 『女の男性論』 大庭みな子
後の二〇一九年四月に自費出版で『日本美への彷徨』を出版することになるが、『藝術の慰め』福永 武彦、『京都古寺逍遥』水上 勉、『美と倫理の矛盾』梅原 猛、『禅語百選』 松原 泰道、『王朝百首』塚本 邦雄、『けさひらく言葉』 塚本 邦雄、『美と宗教の発見』梅原 猛、『陰影礼讃』谷崎 潤一郎、『日本の秀歌 古典編』司代 隆三、『沈黙の日本美』吉村 貞司、『川端康成・美と伝統』吉村 貞司、『彼方の美』福永 武彦などは、関西への単身赴任時に主に書き留めた『日本美への彷徨』の内容に大きく影響している本ばかりである。特に梅原猛と吉村貞司の本は、直接的な引用までを包むものとなった。著作に関する読書はホームである東京で始め、関西に赴任する機会を得て、著作の執筆はアウェイである大阪で始めたということも、何か不思議な巡り合わせを感じる。
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