『反橋』『しぐれ』『住吉』の小編三編  川端康成

 この川端康成集で印象的なのは、いずれも「あなたはいまどこにおいでなのでしょうか」で始まる『反橋』『しぐれ』『住吉』の小編三編である。この三編に通底しているものは、『住吉物語』や和歌などの王朝文化であり、東山文化、連歌・俳諧や文人画であるが、「近代の魂の病から出発したような」スウチンそしてアルブレヒト・デュウラアという西洋画も取り上げている。この三編に取り上げられていることは、ノーベル文学賞記念講演の『美しい日本の私』の基礎になっていると思うが、その講演内容には日本の文化にとって重要な位置を占めている芭蕉の名前がないのは不思議である。一方『しぐれ』には芭蕉の次の文章が引用されている。

 「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、その貫通するものは一なり」

               芭蕉 『笈の小文』

  また『美しい日本の私』の中では、「日本美術の特質」の一つを「雪月花の時、最も友を思ふ」という白楽天の詩語に約められるとした矢代幸雄の文章を紹介している。日本美とは四季折々の自然の美しさに没入し、合一することであると、川端は考えていたのである。

「雪月花の時、最も友を思ふ」  白楽天

THE TIME OF THE SNOWS, OF THE MOON, OF THE BLOSSOMS

THEN MORE THAN EVER WE THINK OF OUR COMRADES.

洛北 原谷苑


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