『美しい日本の私-その序説』 川端康成

 旧富士銀行へ就職した昭和四三年(一九六八年)の一二月に、川端康成はノーベル賞の受賞講演会で『美しい日本の私-その序説』(Japan, the Beautiful, and Myself)を講話している。大東亜戦争での大敗後の国の復興が成り、高度成長時代が始まりだした時期に、日本古来の美と文化と伝統を世界に向けて発信することは大きな意義のあることであった。講話の冒頭に道元禅師の和歌を載せたことも、次のことを意識してこその故であった。すなわち、日本人は四季折々の雪月花の美に触れながら、自然と融合して「もののあはれ」を感じながら生きるという死生観を有していること。そして日本人の無常観とは虚無ということではなく、禅の無一物つまり無尽蔵につながるものであることを、強く印象付けるものとなっている。

「春は花夏ほととぎす秋は月 冬雪さえて冷しかりけり  道元禅師」

  IN THE SPRING, CHERRY BLOSSAMS,

   IN THE SUMMER THE CUCKOO,

   IN AUTUMN THE MOON, AND IN

   WINTER THE SNOW, CLEAR, COLD. 

川端康成に関しては、『伊豆の踊子』爽やかな青春ものであるが、『雪国』『みずうみ』

『千羽鶴』『眠れる美女』は、大人向けの文学である。にもかかわらずその非倫理性をあまり気にすることなく、川端の文学性を理解しえたのは幸せであった。当時は日本文学集や世界文学集そして哲学論文集の流行した時代であったが、今手元にあるのは『日本の文学 38』「川端康成」中央公論社で、昭和三九年二月二十五日初版印刷の第二版である。価格はなんと三九〇円となっている。

永観堂の紅葉


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