「橋を架ける」 美智子上皇后 2

 本の中で人生の悲しみを知ることは,自分の人生に幾ばくかの厚みを加え,他者への思いを深めますが,本の中で,過去現在の作家の創作の源となった喜びに触れることは,読む者に生きる喜びを与え,失意の時に生きようとする希望を取り戻させ,再び飛翔する翼をととのえさせます。悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには,悲しみに耐える心が養われると共に,喜びを敏感に感じとる心,又,喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います。

そして最後にもう一つ,本への感謝をこめてつけ加えます。読書は,人生の全てが,決して単純でないことを教えてくれました。私たちは,複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても。」

  前半の美智子上皇后のお言葉は、人というものは周りの人々に橋を架けて生きてゆくのみならず、自分の内面においても自己に橋を架けることで、本当の自分を発見し自己を確立してゆく存在であることを説いておられる。また後半については、本を読むことは、読者に生きる喜びと希望を与え、また悲しみに耐える力を与えるということを、そしてまた読書は人生が単純でないこと、そして人間関係においても国同士の関係においても、我々人間存在は複雑さに耐えて生きてゆかねばならないとお話しされている。

 人間存在と人間関係を深く洞察された上で、読書というものが人間に生きる喜びと希望を、そして悲しみに耐える力を与えてくれることを、美智子上皇后はご自分の人生と読書の経験の中から見いだされ、子供達への温かなエールとされておられる。クイーンズ・イングリッシュのスピーチの見事さもさることながら、そのご教養の高さと深さ、またそのご品格の高潔さと崇高さに、美智子上皇后が現在の日本に存在されておられることのありがたさを覚えないではいられない。

足立美術館


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