「彌勒菩薩との邂逅」(ノートの二つ目)
大学四年生の時に、立命館大学に行っていた O 君のところに遊びに行ったことがある。下宿から立命館大学衣笠キャンパスは近く、北側に少し歩けば龍安寺があったと記憶している。その学食に夕飯を食べに行ったこともある。 その折に、奈良の古寺巡りをやろうという話になり、レンタ・カーで興福寺、法隆寺、薬師寺、唐招提寺辺りを周った記憶がある。高校の修学旅行は京都と奈良であり、お寺巡りはしていることになっているが、毎晩遅くまで旅館でトランプをしていたこともあり、お寺巡りはスキップしてバスの中で寝ていたので、まじめな古寺巡礼は初めてであった。その最初に興福寺の宝物館で邂逅したのが、中宮寺の弥勒菩薩であった。ちょうど中宮寺が耐火の鉄筋コンクリート造りに建て直している時期であり、弥勒菩薩は興福寺の宝物館に収められていたのであった。入館してすぐのところに御仏は安置されており、一目でこの弥勒菩薩に恋に落ちたのである。( Just fell in love at a glance . )相手が人間であれば、相手にも好きになってほしいという想いが湧くが、相手が仏像であれば何の遠慮もなく、一方的に憧憬の念を抱けるというのは、素晴らしいことである。しかも相手からのお返しは期待できないから、純粋な片思いを継続できるわけである。かくして昭和四十二年・ 1967 年の秋から今に至るまで、仏像の中で最高峰は中宮寺の弥勒菩薩となっている。そしてこの時、私は古寺や仏像への彷徨に目覚めたと言える。 これがノートの二つ目です。 浜離宮恩賜公園