「書友との本の会」
このようにしてM先生から文芸全般にわたる手ほどきを受けたわけであるが、他の思い出としてはお正月に百人一首のかるた会をよくおこなったこと、生まれて初めての音楽会に連れて行って頂いたこと。曲名はブラームスの交響曲第一番で、これは事前にレコードを購入して何度か聞いてコンサートに行った記憶がある。場所は広島公会堂であった。また他の場所でリヒャルト・栄次郎・クーデンホーフ=カレルギーの講演を聞いたのも、M先生のお誘いであった。彼は父ハインリヒと青山光子の次男として東京で生まれた。クーデンホーフ=カレルギー家はボヘミアの貴族で、オーストリー・ハンガリー帝国においてハプスブルグ家に次ぐ伯爵家であった。半ヨーロッパ主義を提唱し、EU構想の先駆けとなった。また第二次世界大戦におけるリヒャルト夫妻のカサブランカ経由の逃避行は、映画『カサブランカ』のモデルであるともいわれている。後に「友愛思想」を説き、鳩山一郎や鹿島守之助に思想的な影響を与えている。また母光子は、ウィーンの社交界の花となり、フランスの香水ゲラン社が「ミツコ」という銘柄の香水を出している。青山光子は、GHQに従順ならざる男・白洲次郎の妻で随筆家の白洲正子の骨董の先生であった青山二郎の縁戚でもあった。
M先生とは実家から至近距離にお住まいであったこともあり、その後もずっと交友は続いており、今でもK君と三人で書の友として、お互いに本の紹介などを行っている。M先生は聖母幼稚園の母親の集まりである「絵本の会」を未だ主宰されており、ますますお元気にご活躍中である。K君は文学に関して夏目漱石を始めとして、幅広く読み込んでおり、特に論語を中心とした漢籍に詳しく、私の読書のジャンルの幅を広げて頂いたが、昨今は源氏物語や万葉集など日本古代文学にも注力されておられる。
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