「神 話」 (詩集『憧憬』より)

  銀色の砂子は

空間に氾濫して

私の眼の中に

清冽さを降り注ぐ

 

かつて私はオリュンポスの神々の如く

天翔ける存在になりたい

と望んだ

神々は私にとって

崇高と永遠の具体であった

見えぬ手が大空より

ぬっと突き出て

私を青暗いエーテルの中に

ひきずり込んでくることを

私は夢みた

 

だが今の私はもう

ギリシャ神話を解さない

天文学的な数の輝きに拘泥しない

私は只見詰める

私という天体で輝く星を

 

その星は遥かに遠く

天と地の創造される以前より

私の中で輝く日を

待ち受けていた

 

私は感じる

私は宇宙塵にすら劣らぬ程

無意味で卑小な

幾何学的点であるが

この星を擁する私の天体は

いかなる空間よりも

更に悠久なることを

 

私の為に残されていた神話は

ひとつの星しか産みはしなかったが

その星は

二次元の世界を超えたところからの

ものであることを

 

自家撞着と二律背反の

カオスの裡にあって

私はこのプラチナの恒星に

指針を求める

 

不安と喪失の雲が

私の天体を蔽わんとする時

私はこの精神的浄化の核である

煌めきに目を凝らす

幾千の宝石を鏤めた

大地の青い王冠より

ただひとつの煌星を戴く私の天体の

なんと清浄にして高邁なことよ

 

私は信ずる

時間と空間の彼岸で

胎まれた私の神話を

 

私は願う

有限な私の中で結晶された星の

未来永劫に輝くことを

 

かのイスラエルの瑞星が

東の国の賢者たちを

ベトレヘムの馬小舎へと導いていった如く

私のこの星は

私の前に聖なる誕生への道を

 照らし続けるだろう

花の聖母大聖堂(フィレンツェ)


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